第8回 イオン交換樹脂の性能分析ガイド 基本物性 性能を数値で捉える(全12回) - イオン交換樹脂のことなら【レジンライフ株式会社】

BLOG & INFO

第8回 イオン交換樹脂の性能分析ガイド 基本物性 性能を数値で捉える(全12回)

樹脂の性能を正確に理解するためには、分析する必要があります。イオン交換樹脂はその特性から多岐にわたる用途に用いられるため、その基本物性やイオン交換速度の評価が非常に重要です。本記事では、イオン交換樹脂の基本的な特性の評価方法について詳しく解説します。特に、イオン交換容量やイオン組成、物理強度といった重要な試験項目を通じて、樹脂の性能を数値で把握する方法を紹介します。

これらの知識を得ることで、樹脂選びや使用時の判断力が向上し、より効果的な活用が可能となり、さらにはあなた自身のプロジェクトの成功に繋がることでしょう。

イオン交換樹脂の基本物性

イオン交換樹脂は、化学的および物理的な特性を持つ重要な材料であり、主に水処理や化学工業の分野で利用されています。樹脂の性質を理解することは、その効率的な使用を可能にし、装置の選定や操作条件の最適化に不可欠です。

樹脂の状態は「目で見る」だけでは分かりません。この分析を通じて、樹脂の隠れた特性を明らかにすることが重要です。

イオン交換樹脂は、ポリマー材料に官能基と呼ばれるイオン交換を行う部位を付帯することにより、特定のイオンを水溶液から吸着する能力を持つ材料です。一般的には、陽イオン交換樹脂と陰イオン交換樹脂の2種類に分類されます。陽イオン交換樹脂はカチオンを交換し、陰イオン交換樹脂はアニオンを交換します。これにより、水質を改良し、有害物質を除去する役割を果たしています。

一般的な分析項目

イオン交換樹脂の評価には、大きく 静的性能(一般物性)動的性能(運転性能) の2つがあります。

■ 静的性能(一般物性)

イオン交換容量、水分含有量、粒度分布、物理強度などが該当し、樹脂の“新品時の基本性能”を示す指標です。これらはカタログ値として公開されており、樹脂同士の比較や選定に利用されます。

■ 動的性能(運転性能)

実際の運転環境や原水水質の影響を受けながら変動する特性で、特に イオン交換速度 の低下は注意が必要です。イオン交換速度が落ちると、一般物性が健全でも以下のような問題が発生します。

  • 運転中の水質が維持できない
  • 純水の採水量(収量)が低下する

このため、通水試験による水質評価や貫流交換容量の測定など、動的性能の確認が重要になります。


静的性能 × 動的性能の両面評価が必須

長期間の運用では、樹脂は必ず劣化します。そのため、静的性能だけでなく、実際の使用条件で変化する動的性能を合わせて分析することが、樹脂の「健康診断」として不可欠です。

正確な性能評価は、樹脂の最適な選定や交換タイミングの判断につながり、水処理の効率化・安定した水質の確保に直結します。

静的性能の評価方法

イオン交換樹脂の性能を把握するためには、まずは静的評価が欠かせません。樹脂の状態は「目で見る」だけではわかりませんので、各種試験を通じてその特性を数値化することが重要です。

各種試験項目

静的性能には複数の試験項目がありますが、なかでも 継続使用時の劣化評価に特に関係する項目 を以下にまとめます。
水分含有量、粒度分布、金属付着量、見掛密度、膨潤率なども重要な物性ではありますが、一般的な純水設備での劣化判断においては、次の項目が中心となります。
※原水水質や用途によっては、これら以外の項目を追加で管理値に設定する場合もあります。

  • イオン交換容量
    樹脂が交換できるイオン量を示す基本性能。低下すると水質や採水量に影響。
  • 顕微鏡観察(または粒度分布)
    破砕や形状の変化を確認。破砕進行は圧力損失増加や樹脂流出の原因に。
  • イオン組成(シリカ吸着量を含む)
    樹脂内部のイオンの種類・割合を分析。汚染の進行度を把握する指標。
  • 物理強度
    摩耗や衝撃に対する耐久性を評価。強度低下は破砕トラブルのリスクを高める。

これらの試験結果を総合的に評価することで、樹脂の基本性能を正確に理解でき、目的に応じた適切な樹脂選定および交換判断が可能になります。

イオン交換容量

イオン交換容量は、樹脂がどの程度イオンを交換できるかを示す最も基本的な性能指標です。この値を測定することで、樹脂が保持している交換可能なイオン量を把握でき、純水装置や軟水装置の処理性能を評価する際の重要な判断材料となります。

イオン交換容量には大きく次の種類があります。

  • 中性塩分解容量
    主に強酸性カチオン樹脂および強塩基性アニオン樹脂で評価される指標。実運転での総合的な交換能力を反映します。
  • 弱酸性交換容量・弱塩基性交換容量
    弱酸性樹脂および弱塩基性樹脂では中性塩分解作用がないため、これらの容量を測定します。

(イオン交換樹脂の各種反応に関して→ こちら

また、強塩基性アニオン樹脂では、継続使用に伴う官能基の“低級化”(第4級→第3級アミンなど)が徐々に進行し、中性塩分解容量が低下して弱塩基容量が増えることがあります。このため、中性塩分解容量と弱塩基性交換容量を合算した「総交換容量」を評価することが一般的です。

測定方法はメーカーによって細部に違いはありますが、考え方や分析原理は共通しています。代表的な方法は以下のとおりです。

  • 樹脂に既知濃度のイオン溶液を通液し、処理前後のイオン濃度差から交換容量を算出する方法
  • 弱酸性樹脂などでは、溶液に浸漬して交換後の濃度変化から求める方法

いずれも、樹脂に含まれる官能基がすべてイオン交換反応を起こした際に放出されるイオン量を測定し、その総量から交換容量を算出するという基本原理に基づいています。 (詳しくは→ こちら

このように、イオン交換容量の正確な測定は樹脂性能の把握や劣化診断の基礎となり、運転最適化や交換タイミングの判断にも直結する重要な評価項目です。

イオン組成

イオン組成とは、イオン交換樹脂の中にどんなイオンが、どの程度の割合で存在しているかを示す基本的な指標です。新品樹脂では、

  • カチオン樹脂:ナトリウムイオン(Na⁺)
  • アニオン樹脂:塩化物イオン(Cl⁻)
    が基準として含まれていることが一般的です。

しかし、超純水用途ではこの“ごく微量の不純物”が問題になります。樹脂中にNa⁺やCl⁻が残っていると、平衡により ng/Lレベルでもリーク(溶出) が発生し、超純水の水質を大きく損なうためです。そのため、超純水用樹脂では以下のような高度精製が必要になります。

  • カチオン樹脂:Na⁺含有量 0.001%以下
  • アニオン樹脂:Cl⁻含有量 0.5%以下
  • 金属不純物も低減処理(最終末端カートリッジ樹脂など)

用途に応じて樹脂を“より清浄化”して使う必要がある理由はここにあります。

純水用途でも重要になる「イオン組成」

純水製造においても、イオン組成の測定は欠かせません。

理由はシンプルで、樹脂に吸着しているイオン量が多いほど、処理中に微量のイオンリークが増え、結果として水質が悪化しやすくなるためです。

現場の事象としては、以下が一般的に見られます。

  • 再生後にもNa⁺やCl⁻が高い
  • 水質の立ち上がりが悪い
  • 採水量が低下している

これら症状がある場合は、再生不良の可能性が高く、樹脂のイオン組成を測定することが問題解決の糸口になります。

シリカ(SiO₂)は特に注意が必要

シリカは形態が複数あり、特にアニオン樹脂へ吸着しやすいイオン状シリカは注意が必要です。

  • シリカ吸着量が多い
  • 原水温度が高い
  • 再生が不十分

こうした条件が重なると、樹脂がシリカを放出し、処理水のシリカ濃度が上昇するリスクがあります。
そのため、処理水シリカが上昇した際は樹脂中のシリカ吸着量を測定し、必要に応じて再生条件の見直しが必要です。

イオン組成の測定方法

基本的な考え方はイオン交換容量の測定と同じです。

  • 樹脂に酸・アルカリを通液または浸漬
  • 溶出してきたイオン量を分析
  • 樹脂内にどのイオンがどれだけ吸着していたかを算出

ただし、イオンの種類によって溶離条件は異なります。
特に価数の高い金属イオンは強酸で煮出すなど、特別な条件が必要な場合もあります。

測定方法の詳細→ こちら(カチオン樹脂アニオン樹脂) 

以上よりイオン組成の分析によって得られる情報は、次のような課題解決に非常に有効です。

  • 樹脂の再生が適切に行われたか
  • 微量イオンリークの原因把握
  • 水質悪化のトラブルシューティング
  • 樹脂の交換時期の判断
  • 超純水・純水装置の安定運転

イオン交換樹脂がどのイオンを保持しているかを正確に把握することは、
「設備の健全性」「水質の安定性」を守るうえで非常に重要なステップです。

必要なデータを的確に分析することで、装置の信頼性向上やトラブルの未然防止につながり、結果として生産や運転の安定に貢献します。

物理強度

物理強度の評価は、樹脂が実運転環境で長く安定して働くために欠かせない項目です。
機械的強度が不十分な樹脂は、使用中にクラックや破砕が増え、さまざまなトラブルを引き起こします。これは、経年使用で劣化する場合だけでなく、新品の段階で樹脂自体の強度が低い場合にも起こります。

物理強度が低いと起こる問題(わかりやすく整理)

  • 樹脂量の減少:破砕した樹脂が塔外へ流出し、必要なイオン交換量を維持できなくなる。
  • 圧力損失の増大:破砕樹脂が増えることで樹脂層が締まり、規定流速が確保できず処理水量が低下する。
  • フィルター詰まり:微細な破砕片が前後段のフィルターを目詰まりさせ、運転に支障が出る。

こうした現象は、純水量の低下や運転コスト増加につながるため、早期の把握が重要です。

評価方法(ポイントを要約)

押し潰し強度試験
強度試験では、樹脂粒に上から一定の力を加え、どの程度の圧力で破砕するかを測定します。測定値は N(ニュートン) で表され、樹脂そのものの機械的強度を把握するための基本データとなります。試験は樹脂一粒ごとに行うため、最低 50 粒以上を対象にし、代表性のあるサンプリングが取れているかを確認することが重要です。

樹脂は粒ごとに個体差があるため、データにはバラつきが生じるのが一般的です。したがって、単回の評価ではなく、継続的な分析を行い、傾向として強度を判断することが推奨されます。 

球形率(破砕率)測定
球形率の測定は、樹脂のクラックや破砕を定量的に評価できる有効な指標です。新品樹脂についてはカタログにも数値が掲載されており、一般的には 1,000 粒以上 を対象に計測して、破砕・クラックの割合を算出します。

新品樹脂の品質確認としても広く使用される評価項目です。また、適切に代表サンプリングができれば、使用済み樹脂でも同様に定量評価が可能です。

写真による判定はどうしても定性的な評価に留まるため、球形率による数値評価を併用することで、より信頼性の高い判断が得られます。強度試験(押しつぶし試験)と同様に、継続的にデータを取得し、変化を追跡することが非常に重要です。

サイクルアップ試験
サイクルアップ試験は、再生と採水の工程を模擬的に繰り返し、樹脂の膨潤・収縮によって生じるクラックや破砕の増加量を評価する試験です。再生には実機と同等の再生剤を使用し、実際の運転条件に近い状態を再現します。一般的には 50 サイクルまたは 100 サイクル を基準として実施され、新品樹脂の採用時にその耐久性を確認する目的で利用されることが多い試験方法です。

樹脂の物理強度は、静的性能評価の中でも特に重要な「基本物性」にあたります。
破砕の増加は純水装置の性能低下やトラブルに直結するため、定期的な強度評価によって“樹脂の見えない状態を見える化”することが大切です。また、原水に酸化劣化物質が含まれる場合は破砕が進行しやすいため、より注意が必要です。

動的性能との違い

イオン交換樹脂の評価では、静的性能と動的性能のどちらも欠かせません。
静的性能とは、樹脂が「静止した状態」で示す基本的な物性を評価するもので、樹脂そのものが持つ本来の性能を把握できます。一方、動的性能は、樹脂が「実際に水が流れる環境」でどのように機能するか、特にイオン交換の速度や処理能力を評価する指標です。

つまり、静的性能は樹脂の基礎能力、動的性能は実運転での実力を示すものです。
どちらも樹脂の用途や運転条件に応じて非常に重要であり、両面から総合的に評価することで、適切な樹脂管理と設備運用につながります。

動的性能との違い

静的性能と動的性能の違いは、「評価する環境」にあります。
静的性能は、樹脂を一定条件下で評価し、イオン交換容量・イオン組成・物理強度・粒度分布など、樹脂そのものが持つ基本的な物性を確認する指標です。

一方、動的性能は、水が実際に樹脂層を流れる中での挙動を評価し、流速・圧力損失・温度など運転条件の影響を受けながら、実際の処理能力やイオン交換速度を確認します。

つまり、
静的性能 = 樹脂の基礎能力
動的性能 = 実運転での実力

どちらも樹脂評価には欠かせない視点です。

静的性能が重要な理由

静的性能は、樹脂選びやシステム設計の初期段階での基本的な指標です。樹脂の機能や適応性を理解するためには、まずその静的な特性を把握することが不可欠です。イオン交換容量やイオン組成、物理的強度などがこの性能に含まれます。これにより、樹脂の選定において誤った判断を避けることが可能になります。また、静的性能は製造プロセスや品質管理の基準として、安定した製品供給を確保するための指標ともなるのです。

カタログ上の数値

イオン交換樹脂のカタログに掲載されている数値は、すべて新品樹脂を理想条件で評価した静的性能に基づくものです。選定の参考として重要ですが、実際の運転条件や経年使用では、流体成分・温度・圧力などの影響を受け、使用環境により数値の低下度合いも異なります。また、実機を模擬した新品樹脂を使用した試験では、同等のカタログ値を持つ樹脂でもメーカー間で結果が異なることもあります。

そのため、樹脂選定ではカタログ値だけに依存せず、実際の使用環境を踏まえた評価と、継続使用による性能の変動をモニタリングすることが不可欠です。

静的性能と動的性能の両方を理解し、適切に評価することで、樹脂の性能を的確に把握し、安定した水処理につなげることができます。

【初回価格 3,680円】お試しレンタルキャンペーン

純水器ボンベの家庭用レンタルを始めました。この機会に是非お試しください。

拭き取り不要 純水器のメンテナンスはいらない イオン交換樹脂の交換も不要 ボディーの美観を維持できる

数量限定によるセール価格! 無駄な自動課金はありません。

この記事の著者

永田 祐輔

2022年3月、29年間勤務した大手水処理エンジニアリング会社から独立しました。前職では、イオン交換樹脂を中心とした技術開発、品質管理、マーケティング戦略において多くの経験を積んできました。これらの経験を生かし、生活に密着した水処理技術から既存の水処理システムまで、幅広いニーズに対応する新たな事業を立ち上げました。

このブログでは、水処理技術や環境保護に関する情報を発信しています。皆さんと共に、きれいで安全な水を未来に残すための方法を考えていきたいと思っています。どうぞよろしくお願いします!

コメントは受け付けていません。

プライバシーポリシー / 特定商取引法に基づく表記

Copyright © 2024 レジンライフ株式会社 All rights Reserved.