第9回 イオン交換樹脂の動的性能を徹底分析(全12回) - イオン交換樹脂のことなら【レジンライフ株式会社】

BLOG & INFO

第9回 イオン交換樹脂の動的性能を徹底分析(全12回)

イオン交換樹脂の性能を最適に引き出すためには、その評価方法において静的性能だけでは不十分であることが多いです。特に、実際の使用環境における「動的性能」の分析が重要となります。

本記事では、動的性能の概念や静的性能との違いを明らかにし、具体的な評価手法やその効率を比較しながら、樹脂の汚染といった実際の運用における課題についても言及します。

動的性能試験では、イオン交換反応が実機に即した環境でどのように影響を受けるかが評価されます。そのため、静的試験では見逃されがちな問題、例えば汚染の影響についても具体的に分析することができます。

読者は本記事を通じて、イオン交換樹脂の真の性能を理解し、現場で直面する可能性のあるトラブルを事前に防ぐ方法を学ぶことができます。次のステップである、具体的な測定方法とその評価手法にも繋がる内容をお楽しみください。

イオン交換樹脂の基礎知識

イオン交換樹脂は、水処理や化学プロセスで広く利用される材料で、文字通り「イオンを交換する」機能を持っています。特に純水・超純水の製造には欠かせない存在であり、一般産業用の用水処理をはじめ、半導体製造における電子部品の洗浄水、発電所のボイラー系統など、多岐にわたる分野で使用されています。

イオン交換樹脂の性能評価には、「静的性能」と「動的性能」という二つの視点があります。静的性能は樹脂そのものが持つ基本的な物性を示し、一方で動的性能は、実際の運転環境に近い条件下での樹脂の働きを捉える指標です。これら両方を正しく理解することが、イオン交換樹脂の選定や運用最適化において非常に重要になります。

動的性能とは

動的性能とは、イオン交換樹脂が実際の運転条件下でどのように機能するかを示す指標です。具体的には、流れる水が樹脂層を通過する際に、どれだけ効率よくイオン交換が行われるかを評価します。測定方法としては、古くから用いられている貫流交換容量試験や、近年一般的となっているイオン交換速度試験など、通水を伴う動的性能試験があります。

これらの試験によって、樹脂が現状どの程度の性能を維持しているか、また使用環境の影響でどのような変化が生じているかを把握することが可能です。動的性能は、実機の運転データに基づいて樹脂の状態を捉えるため、継続使用における評価として非常に重要な項目です。

静的性能との相違

静的性能は、イオン交換樹脂が本来持つ物理的特性や基本性能を示す指標です。代表的な項目として、イオン交換容量、粒度分布、物理強度などが挙げられます。一方、動的性能は、実際に流れがある状態で樹脂がどのように機能するかを評価するものです。静的性能が良好であっても、動的性能が不足している場合には、実運転で水質が安定しないケースもあります。

また、イオン交換樹脂を用いた設備設計では、静的性能が基本データとして使用されます。そのため、イオン交換容量や粒度分布などは、安全かつ安定した運転を行うための必須条件であり、設計マージンを満たすことが重要です。

このように、静的性能と動的性能は互いを補完する関係にあります。静的性能だけでは把握できない運転中の樹脂の挙動を理解するためには、動的性能の評価が欠かせません。両者を適切に組み合わせて評価することで、より正確な樹脂性能の把握が可能となります。

動的性能の評価方法

動的性能の評価は、イオン交換樹脂が実運転下でどのように機能しているかを把握するうえで不可欠です。動的性能試験では、樹脂層を水が通過する際に、正常にイオン交換が行われているかを通水試験によって確認し、性能を解析します。

また、この評価結果はイオン交換容量などの静的試験と組み合わせることで、樹脂の総合的な状態を判断するための重要な指標となります。

このセクションでは、基本的な動的性能試験の手法や、評価に用いられる効率・性能指標について詳しく解説します。

基本的なテスト手法

動的性能試験は、イオン交換樹脂が実際の運転条件下でどのように機能しているかを評価するための重要な分析手法です。代表的なテストは「貫流交換容量試験(breakthrough test)」で、特定濃度のイオンを含む水を樹脂層に通水し、どの時点でイオンが通過し始めるか(ブレイクスルー)を観測します。このデータにより、樹脂のイオン交換速度や、運転時に実際に利用できる交換容量を把握できます。

1. 貫流交換容量試験(Breakthrough Test)

この試験は、より実機に近い条件で行うことで評価精度が向上します。

● 試験設定のポイント

  • 樹脂層高:600~1000mm(実機と同条件)
  • 混床樹脂の比率:実機のカチオン/アニオン比と合わせる
  • 流量条件:SV(空塔速度)ではなく LV(線速度) を実機に合わせて設定
  • 原水水質:模擬原水を使用(例:100 ppm 程度の NaOH、Na₂SO₄ 溶液)

● 評価内容

貫流点までに樹脂が吸着したイオン量を 当量/L-樹脂 で算出します。

  • イオン交換容量:樹脂全体が持つ潜在的な交換能力
  • 貫流イオン交換容量:実際の運転中に使用できる交換能力

両者は似た単位ですが、意味合いが異なる点が重要です。

貫流イオン交換容量の計算式

2. イオン交換速度試験(MTC試験など)

近年では、貫流試験とは異なるアプローチとして「イオン交換速度」を直接測定する試験も用いられています。

● 特徴

  • 樹脂をカラム充填し、一定条件で通水
  • 貫流点を待たずに、入口・出口のイオン濃度差から交換速度を算出
  • 少量の樹脂・高めのLVを設定することで 数時間程度の試験が可能
  • 自動化設備を用いて複数検体の同時測定も可能

● 計算

  • 境膜物質移動係数(MTC)として算出
  • 流速、入口・出口濃度、樹脂層高、粒径、空隙率などを反映
  • この手法は R.R.Harries1によって提唱され、旧 Rohm and Haas 社の J.T.McNulty2 が発電所の復水脱塩装置で適用した評価技術として知られています。

MTCの計算式

イオン交換のイメージ

3. 自動化システムによる詳細評価

樹脂量を少なくしても、自動化された動的試験装置により、以下のような実運転に近いデータを連続的に取得できます。

  • 樹脂の汚染影響(フミン質、フルボ酸、酸化劣化由来成分など)
  • 流速変動時の応答
  • イオンリークの挙動
  • 運転初期・定常・後期の樹脂性能の変化

静的性能では把握できない、「実際の運転で樹脂がどのように振る舞っているか」を可視化できる点が大きな利点です。

動的性能試験は、静的性能だけでは見えないイオン交換樹脂の“実働性能”を評価するための非常に有効な手段です。貫流交換容量試験やMTC試験を使うことで、実機条件下でのイオン交換速度・実使用可能容量・汚染の影響などを詳細に把握でき、樹脂の状態診断および運転改善に大きく貢献します。

効率と性能指標の比較

動的性能の評価には、複数の効率指標と性能指標があり、それらを比較・分析することが非常に重要です。代表的な指標として「イオン交換容量」が挙げられますが、これらはこのような静的性能とは異なり、実際の運転条件下で評価することで、より現実的で精度の高いデータが得られます。

さらに、動的試験で得られる「イオン交換速度」や「貫流イオン交換容量」といった指標は、樹脂の経年劣化や汚染の影響を捉えるうえで極めて有効です。これらの結果を総合的に評価することで、新品時には見えない、長期使用における樹脂の挙動や適用性が明確になります。

これらの動的性能は、静的性能試験と合わせて、樹脂の最適な交換タイミングの判断、運転コストの最適化、さらにはプラント全体の安全で安定した運転を実現するために欠かせない指標です。

動的性能への原因要因

イオン交換樹脂の動的性能は、その効率を決定する重要な要素です。実際の運転条件下で樹脂がどのように性能を示すかを理解するためには、動的性能に影響を与える要因を把握することが不可欠です。本章では、樹脂の汚染の影響と、その適切な運用方法について詳しく解説します。

樹脂の汚染と動的評価

樹脂の汚染は、動的性能低下の主な原因となります。汚染が進行すると、イオン交換速度が低下することや、breakthroughの早期発生、通水量の減少など、様々な形で現れます。特に、原水に含まれるフミン質や、カチオン樹脂の酸化劣化による溶出物は、それぞれ特有の問題を引き起こします。

フミン質は、特にフルボ酸成分が強塩基性アニオン樹脂に吸着し、再生後も完全に除去されることが困難です。このため、イオン交換サイトが塞がれ、結果として交換速度が大幅に低下します。これにより、水質が安定せず、正常な処理能力が損なわれるのです。

一方で、カチオン樹脂の酸化劣化による溶出物も重要です。強酸性カチオン樹脂が劣化すると、ポリスチレンスルホン酸塩(PSS/PSA)と呼ばれる有害物質が発生し、これがアニオン樹脂に強固に吸着します。

この一連の流れは、イオン交換速度の低下や再生効率の悪化、さらには純水立ち上がりの遅れなど、重大なトラブルの要因となります。

適切な運用と対策

樹脂の動的性能を最大限に引き出すためには、適切な運用が不可欠です。まず、原水の品質管理が重要です。フミン質や他の有機物質が高濃度で存在する場合、設備の導入を検討し、前処理を強化することが重要です。これにより、樹脂への負荷を軽減し、性能の維持を図ります。

また、定期的な設備メンテナンスや樹脂の性能分析も必須です。運転中の樹脂の挙動をモニターし、異常が発見された場合は早急に対応することが重要です。汚染が発生した場合には、可能な対応策などを用いた再生操作を迅速に実施し、性能の回復を試みるべきです。

最後に、樹脂の選定にも留意する必要があります。異なる用途に応じた樹脂の選定は、動的性能の向上に寄与します。新たな樹脂選定、たとえばポーラスタイプ、MRタイプ製品を検討し、運用条件の最適化などを行うことで、長期的な性能向上を図ることが可能です。

動的性能への影響要因を理解し、適切な運用と対策を講じることで、イオン交換樹脂はその最大の効率を発揮しています。これらの知識をもとに、実践的な運用が行えるよう努力が求められます。

  1. 5th EPRI CONDESATE POLISHING WORKSHOP October 29-31 1985. Anion Exchange Kinetics in condensate Purification Mixed Beds Assessment and Performance Prediction ↩︎
  2. 47thAnual Meeting Tnternational Water Confarence. October 27-29 1986 Anion Exchange Resin Kinetic Testing An Indispensable Diagnostics Tool For Condensate Polisher Trouble shooting. ↩︎

【初回価格 3,680円】お試しレンタルキャンペーン

純水器ボンベの家庭用レンタルを始めました。この機会に是非お試しください。

拭き取り不要 純水器のメンテナンスはいらない イオン交換樹脂の交換も不要 ボディーの美観を維持できる

数量限定によるセール価格! 無駄な自動課金はありません。

この記事の著者

永田 祐輔

2022年3月、29年間勤務した大手水処理エンジニアリング会社から独立しました。前職では、イオン交換樹脂を中心とした技術開発、品質管理、マーケティング戦略において多くの経験を積んできました。これらの経験を生かし、生活に密着した水処理技術から既存の水処理システムまで、幅広いニーズに対応する新たな事業を立ち上げました。

このブログでは、水処理技術や環境保護に関する情報を発信しています。皆さんと共に、きれいで安全な水を未来に残すための方法を考えていきたいと思っています。どうぞよろしくお願いします!

コメントは受け付けていません。

プライバシーポリシー / 特定商取引法に基づく表記

Copyright © 2024 レジンライフ株式会社 All rights Reserved.