【第3回】純水器は「樹脂量」だけで決まらない~同じ量のイオン交換樹脂でも、純水性能が変わるのはなぜ?~ (全12回連載 純水を科学する)
純水器を考えるとき、一つの目安になるのが、「イオン交換樹脂がどれくらい入っているか」です。
樹脂量が多くなれば、交換できるイオンの総量も増えるため、基本的にはより多くの水を処理できるようになります。
では、同じ種類の樹脂を、同じ量だけ使えば、同じ性能の純水器になるのでしょうか?
実は、そうとは限りません。
純水器の性能には、樹脂量だけでなく、樹脂層の高さ、水を流す速さ、水の流れ方、そして樹脂をどこまで有効に使えるかなど、さまざまな要素が関係しています。
この「純水を科学する」シリーズでは、身近になってきた純水洗車器も一つの題材として取り上げながら、イオン交換式純水器の仕組みを考えていきます。
純水洗車器の中で起きていることは、基本的には工業用の純水装置と同じイオン交換の原理です。そこで、実際の装置や実験を通して、純水器はどのように設計すればよいのか、そしてどのように使えばイオン交換樹脂の性能を十分に引き出せるのかを見ていきたいと思います。
今回はその第一歩として、同じ量のイオン交換樹脂を使った実験から、「樹脂量だけでは純水器の性能は決まらない」という点を考えてみましょう。
樹脂が多ければ、良い純水器なの?
純水器の性能を考えるとき、分かりやすい目安の一つがイオン交換樹脂の量です。
市販されている純水器を比較するときにも、「樹脂○L」「○L充填」といった表示を目にすることがあります。
では、樹脂が多く入っていれば、それだけ性能の良い純水器と考えてよいのでしょうか。
まずは、樹脂量と純水器の性能の関係から考えてみましょう。
樹脂量とイオン交換容量の関係
イオン交換樹脂には、水中のイオンを交換できる量に限りがあります。これをイオン交換容量と呼びます。
同じ種類・同じ状態の樹脂であれば、樹脂量が増えるほど、利用できるイオン交換容量も基本的には増えていきます。
つまり、
樹脂量が多い
↓
交換できるイオンの総量が多い
↓
より多くの水を処理できる
という関係になります。
この意味では、樹脂量は純水器の処理できる水量を考えるうえで、とても重要な要素です。
ただし、ここで一つ疑問が生まれます。
同じ種類の樹脂を、同じ量だけ使えば、どのような純水器でも同じ性能になるのでしょうか?
同じ樹脂量なら、性能も同じ?
実際には、同じ量のイオン交換樹脂を使っても、純水器としての性能が必ず同じになるとは限りません。
例えば、同じ樹脂を細長い容器に充填した場合と、太く浅い容器に充填した場合ではどうでしょうか。
樹脂量は同じでも、樹脂層の高さや装置の断面積は変わります。
さらに同じ流量の水を流した場合でも、樹脂層の中を水が通過する状態は同じではありません。
つまり純水器では、「どの樹脂を、どれだけ使うか」だけではなく、「その樹脂をどのような状態で使うか」も性能に関係しているのです。
「どれだけ入っているか」と「どう使うか」
ここまでを整理すると、純水器を考えるときには二つの視点があります。
一つは、
「樹脂がどれだけ入っているか」
です。これは主に、どれだけのイオンを交換できるか、つまり総交換容量に関係します。
もう一つが、
「その樹脂をどのように使うか」
です。
樹脂層の高さ、装置の断面積、水を流す速さ、水の流れ方などによって、充填した樹脂の性能をどの程度有効に使えるかが変わってきます。
これは家庭用の小型純水器でも、工業用の大型純水装置でも、基本的には共通する考え方です。
では、本当に同じ量の樹脂でも、使い方によって純水性能に違いが生じるのでしょうか?
次は、実際に同じ56 mLの混床樹脂を使い、条件を変えて純水をつくって確かめてみましょう。
同じ量の樹脂で純水をつくってみよう
ここまで、樹脂量は純水器の処理能力を考えるうえで重要である一方、樹脂を「どのような状態で使うか」も重要であることを見てきました。
では、本当に同じ種類・同じ量のイオン交換樹脂を使っても、純水性能に違いが生じるのでしょうか。
実際に条件を変えて確かめてみました。
実験方法 ― 樹脂量を同じにして「樹脂層の形」を変える
今回の実験では、使用する混床樹脂の量を56 mLで一定とし、容器の形状を変えることで、樹脂層の高さを変えました。
比較した樹脂層高は、53 mmと95 mmです。

使用している樹脂の種類と量は同じですが、容器の断面積が異なるため、同じ56 mLでも樹脂層の高さは変わります。
動画では、原水TDS約110 ppm、流量約17 L/hの条件で通水し、処理水の変化を確認しました。
今回確認したいのは、
「同じ56 mLの樹脂でも、樹脂層の形が変わると純水性能は変わるのか?」
という点です。
実際に水を流してみる
それでは、実際に水を流してみましょう。
どちらも同じ混床樹脂を56 mL使用しているため、樹脂そのものが持つイオン交換容量は基本的には同じです。
違うのは、容器形状による樹脂層の高さと断面積です。
果たして、処理水には違いが現れるのでしょうか。
同じ樹脂量なのに、結果に違いが現れた
実験してみると、同じ56 mLの混床樹脂を使用しているにもかかわらず、樹脂層の形によって純水性能に違いが現れました。
層高95㎜と高い方がTDSが3ppm、一方53㎜の方は17ppmとなりました。
ここで重要なのは、使用した樹脂の種類や量を変えたわけではないということです。
変えたのは、容器形状による樹脂層の高さと断面積です。
つまり、
「同じ種類の樹脂を、同じ量だけ使えば、純水器としての性能も同じになる」
とは限らないことが、この実験から見えてきます。
では、なぜこのような違いが生じたのでしょうか。
実験結果から何が分かる?
ここからは、今回の実験結果について少し考えてみましょう。
同じ樹脂量で結果に違いが現れたということは、純水器の性能を考えるためには、樹脂量以外にも見るべき要素があるということです。
同じ樹脂量でも「樹脂層の形」が違う
今回の実験では、どちらも混床樹脂は56 mLです。
しかし、一方は太く・浅い樹脂層、もう一方は細く・高い樹脂層となっています。
つまり樹脂量が同じでも、容器の形を変えることで、
樹脂層の高さと装置の断面積
が変化しています。
ここで注意したいのが、
「層高が高くなったから、水と樹脂の接触時間が長くなった」
と単純に考えることです。
樹脂量 (V) と流量 (Q) から考える基本的な空塔接触時間(EBCT)は、
EBCT=V / Q
で表すことができます。
今回の実験では、樹脂量56 mLと流量約17 L/hは同じです。
したがって、この考え方による接触時間は基本的に同じです。
それでも純水性能に違いが現れました。
ここに、今回の実験を考える重要なポイントがあります。
水は樹脂層の中をどのように通る?
もう一つ注目したいのが、線流速(LV)です。
線流速は、LV = Q / A
で表されます。
Q は流量、Aは装置の断面積です。
つまり、同じ流量であっても、容器の断面積が変わればLVも変わります。
今回の実験では、樹脂量を一定にしたまま容器形状を変えているため、樹脂層の高さだけでなく、断面積やLVも同時に変化しています。
したがって、今回の結果を単純に、
「層高が高かったから性能が良くなった」
と結論づけることはできません。
さらに実際の純水器では、水が樹脂層全体に均一に流れているか、特定の部分に集中して流れていないかといった、樹脂層内の水の流れ方も重要になります。
つまり、純水器の性能は、
樹脂量
+ 樹脂層高
+ 断面積
+ 線流速(LV)
+ 水の流れ方
といった複数の要素を組み合わせて考える必要があります。
実験上の注意
細いカラムでは、壁面近傍の樹脂の充填状態や水の流れが中心部と異なる「壁効果」が生じる可能性があります。今回使用した細径側のカラムは内径約30 mmであるため、この影響についても考慮しながら結果を見る必要があります。
次に注目するのは「樹脂層の高さ」
今回の実験から、少なくとも一つのことが分かりました。
純水器の性能は、樹脂量だけでは説明できない。
同じ56 mLの樹脂でも、その樹脂をどのような形の層として使用するかによって、結果に違いが現れました。
一方で、今回の実験では容器形状を変えたことで、層高だけでなく、断面積やLVなども同時に変化しています。
では、その中でも「樹脂層の高さ」そのものは、純水性能にどのような意味を持っているのでしょうか。
水中のイオンは、樹脂層の入口から出口まで、すべて同じように交換されているのでしょうか。
実は、ここを理解するためには、単なる樹脂量や接触時間だけではなく、樹脂層の中でイオン交換がどのように進んでいくのかを見る必要があります。
次回は、
第4回 なぜ純水器には「高さ」が必要なのか?
~イオン交換樹脂の層高と純水性能の関係~
として、今回の実験から見えてきた「層高」について、もう一段深く考えてみましょう。
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