【第4回】軟水器の「つくり」を見てみる― シャワー用軟水器から考える、樹脂量と水の流れ ―(全5回連載 軟水を科学する)
シャワー用軟水器は、外から見ただけでは、その性能や内部でどのように水が流れているのかはなかなか分かりません。特にシャワーは流量が多いため、樹脂量、水の流れ、そして内部構造のバランスが軟水の品質を左右します。
今回は、シャワー用軟水器の内部構造を実際に見ながら、水がどのように樹脂層を通過するのかを確認します。さらに、通水前後の硬度を測定し、「良い軟水をつくるためには、どのような構造が必要なのか」を実験と動画を交えて考えていきます。
「軟水」といっても、その中身は同じなのでしょうか?
シャワー用軟水器には、シャワーヘッドに取り付けるコンパクトなタイプから、より多くのイオン交換樹脂を充填できる据置型まで、さまざまな構造があります。いずれも「軟水」をつくる装置ですが、実際にどこまでカルシウムやマグネシウムを除去できているかは、必ずしも同じではありません。
例えば、水道水の硬度が少し低下した場合でも「軟水化」は進んでいます。一方で、カルシウムやマグネシウムをさらに低い濃度まで除去した水も、同じように「軟水」と表現されます。つまり、「軟水」という言葉だけでは、その水がどの程度まで硬度を除去した水なのかは分からないということです。
特にシャワーは短時間に多くの水を使用します。その流量に対して十分な硬度除去を行うには、樹脂量を確保するとともに、一定の樹脂層に水を適切な速度で流すことが重要になります。
シャワーヘッド取付型と据置型では、大きさだけでなく、確保できる樹脂量や樹脂層、水の流れ方も異なります。では、この「つくり」の違いによって、実際に得られる軟水の硬度はどの程度変わるのでしょうか。
今回は、人への効果・効能ではなく、「どこまで硬度を除去できるのか」という水質そのものに注目して、実験しながら考えていきます
シャワーは「流量が多い」
シャワーは、ドリッパーのようにゆっくり水を流す場合とは異なり、短時間に多くの水を使用します。一般的なシャワーでは、1分間に数L以上の水が流れるため、その水量に対してカルシウムやマグネシウムをどこまで除去できるかがポイントになります。
イオン交換反応は瞬間的に完了するものではありません。そのため、流量が大きくなるほど、十分な樹脂量と樹脂層を確保し、水を適切に接触させることが重要になります。
つまり、同じ「軟水シャワー」であっても、樹脂量に対してどのくらいの水を流しているのかによって、得られる水の硬度は変わる可能性があります。
ここが、シャワーヘッド取付型と据置型を比較するうえでの重要なポイントです。次に、限られたスペースにどのくらいの樹脂を充填できるのかを見てみましょう。
限られたスペースに、どれだけ樹脂を入れられるか
シャワーヘッド取付型の軟水器は、コンパクトで使いやすい一方、内部に充填できるイオン交換樹脂の量には限りがあります。ここで重要なのは、単純に樹脂量の多い・少ないではなく、シャワーの流量に対して十分な樹脂量と樹脂層を確保できているかという点です。
樹脂量が少なくてもカルシウムやマグネシウムの一部は除去されるため、軟水化は進みます。しかし、より低い硬度まで処理しようとすると、流量に見合った樹脂量を確保し、さらに水がその樹脂層を十分に通過できる構造が必要になります。
一方、据置型では装置を大きくできるため、より多くの樹脂量と一定の樹脂層高を確保しやすいという特徴があります。
つまり、シャワー用軟水器では、
「軟水になるか」だけでなく、「その流量で、どこまで硬度を下げられるのか」
を見ることが大切です。
「樹脂量×流速×樹脂層」が軟水性能を決める
シャワー用軟水器の性能を考えるうえでは、樹脂量、水の流速、そして樹脂層の高さを組み合わせて考えることが重要です。

十分な樹脂量があっても、流速が大きすぎれば、カルシウムやマグネシウムがイオン交換される前に水が通過し、硬度が十分に低下しないことがあります。また、樹脂量が少なければ、水の流れが適切であっても、シャワーのような大きな流量に対して十分な硬度除去が難しくなります。
さらに、同じ樹脂量でも、一定の樹脂層高を確保し、その樹脂層を水が上から下まで適切に通過することで、イオン交換を段階的に進めることができます。
つまり、シャワー用軟水器では、単に「イオン交換樹脂が入っている」「樹脂量が多い」というだけではなく、
樹脂量 × 水の流速 × 樹脂層
この3つがどのようなバランスで設計されているか
が、「どこまで硬度を下げられるのか」を考えるうえで大切なポイントになります。
実験!シャワー用軟水器の中を見てみよう
シャワー用軟水器の性能を理解するためには、実際の内部構造や水の流れ方、最終的な水質を確かめることが不可欠です。今回は、カートリッジ(内径38.2㎜φ 141.4㎜H)を準備して実際のシャワーヘッドに取付けるのと、一方で当社で実際に扱っている据置型の設備を準備して、水の流れを観察し、処理水の硬度を測るという実験を行います。これにより、軟水器の設計や動作がどのように機能しているのかを詳しく見ていきましょう。
同じ水量でも、樹脂を通る水の速さは違います

今回の実験では、カートリッジ型と据置型のどちらにも、同じ**1.5 L/min(90 L/h)**程度の水道水を流しました。シャワーヘッドから出てくる水量は同じですが、装置の中を見ると、水がイオン交換樹脂を通過する速さには大きな違いがあります。
これは、水が流れる筒の太さが異なるためです。同じ量の水を流した場合、細い筒では水は速く、太い筒ではゆっくり流れます。
今回使用したカートリッジの内径は38 mm、据置型のボンベは120 mmです。そのため、同じ1.5 L/minの水を流しても、カートリッジ内部では据置型よりもかなり速い速度で水が樹脂層を通過します。
この「装置の断面積を考慮した水の流れる速さ」を、水処理では線流速(LV:Linear Velocity)と呼びます。
線流速(m/h)= 流量(m³/h)÷ 装置の断面積(m²)
今回の条件では、流量1.5 L/min=0.09 m³/hですので、
カートリッジ型:約79 m/h
据置型:約8.0 m/h
となります。
つまり、シャワーから出てくる水量は同じでも、カートリッジ型では据置型のおよそ10倍の線流速で水が樹脂層を通過する計算になります。
ここで重要なのは、シャワーの流量が同じでも、イオン交換樹脂から見れば、水が通過する速さはまったく違うということです。
では、この流速の違いに加えて、樹脂量や樹脂層の高さの違いが、実際に得られる軟水の品質にどのように影響するのでしょうか。実際に水道水を流して確認してみます。
軟水器を分解して内部構造を確認
今回は、シャワーヘッドの前段に取り付けるカートリッジ型と、より多くのイオン交換樹脂を充填できる据置型を使用し、同じ水道水を同じ流量で通水して、硬度除去の違いを比較しました。
実験条件は次のとおりです。
- カートリッジ型:内径38 mm、イオン交換樹脂80 mL
- 据置型:内径120 mmの小型FRPボンベ、イオン交換樹脂5 L
- 原水:同じ水道水
- 通水量:どちらも約1.5 L/min(約90 L/h)
- 評価方法:硬度発色指示薬によるカルシウム・マグネシウムの除去状況の比較
同じ流量でも、樹脂を通る水の速さは大きく違います
シャワーから出る水量は、どちらも同じ約1.5 L/minです。しかし、装置の内径が異なるため、イオン交換樹脂層を通過する水の速さには大きな違いがあります。
前述した線流速(LV)で比較すると、
カートリッジ型:約79 m/h
据置型:約8.0 m/h
となり、カートリッジ型では据置型のおよそ10倍の速さで水が樹脂層を通過する計算になります。
イオン交換反応は、硬度成分が樹脂に触れた瞬間にすべて完了するわけではありません。水中のカルシウムやマグネシウムが樹脂表面から内部へ移動し、イオン交換が進むには一定の時間が必要です。
そのため、線流速が大きくなるほど、十分にイオン交換が進まないまま水が樹脂層を通過し、処理水に硬度成分が残りやすくなると考えられます。
樹脂量と「樹脂層高」にも大きな違いがあります
もう一つの大きな違いが、樹脂量と樹脂層の高さです。
内径38 mmのカートリッジに80 mLの樹脂を充填すると、樹脂層高は計算上約71 mmになります。
一方、内径120 mmの据置型ボンベに5 Lの樹脂を充填すると、樹脂層高は約440 mmとなります。
したがって、今回比較する2つの装置は、
カートリッジ型:80 mL・層高約71 mm・LV約79 m/h
据置型:5 L・層高約440 mm・LV約8.0 m/h
と、イオン交換樹脂の使用条件が大きく異なっています。
同じ流量、同じ水道水、そして同じイオン交換樹脂を使用しても、装置の構造によって得られる「軟水」はどの程度変わるのでしょうか。
実際の処理水を比較してみます。
実験結果――どちらも軟化するが「軟水の中身」が違う
実際に水道水を通水し、処理水を硬度発色指示薬で比較すると、どちらの装置でもカルシウム・マグネシウムが除去され、軟水化していることが確認できました。
しかし、その程度には明らかな違いが見られました。
- 原水(水道水):赤色系の発色
- カートリッジ型:紫~赤紫色に変化し、硬度の低下を確認
- 据置型:青色まで変化し、硬度成分がより十分に除去されていることを確認
カートリッジ型でも原水から発色が変化しているため、硬度成分は除去されており、確かに「軟水化」はしています。*一方、据置型ではさらに大きな色の変化が見られ、両者の硬度除去の程度には違いがあることが分かりました。
つまり、同じ「軟水シャワー」であっても、
「軟水になったか」だけではなく、「どの程度まで硬度を下げられたか」
という視点で見ると、その「軟水の中身」には違いがあることが分かります。
※今回の発色指示薬は硬度除去の傾向を確認するために使用したもので、色調から硬度を定量したものではありません。
この違いは「樹脂量」だけなのでしょうか?
ここで一つ気になるのが、「据置型の方が樹脂量が多いから、硬度をより除去できたのでは?」という点です。
確かに樹脂量は重要です。今回もカートリッジ型が約80 mLなのに対し、据置型には約5 Lのイオン交換樹脂が充填されており、処理できる水量や硬度除去性能に大きく関係します。
しかし、樹脂量だけで処理水質が決まるわけではありません。
参考として、以前、同じ量の純水用混床イオン交換樹脂を使い、カラムの太さや樹脂層高を変えて通水する実験を行いました。純水用樹脂では水中のさまざまなイオンを除去するため、処理水質の違いをTDSで確認しています。
この実験では、同じ樹脂量であっても、カラムの形状や水の流し方を変えることで、処理水のTDSに違いが現れました。
つまり、イオン交換樹脂では、
「どれだけ樹脂が入っているか」だけでなく、
「その樹脂に、どのように水を通すか」も大切です。

今回の軟水シャワーについても、樹脂量の違いだけではなく、線流速や樹脂層高、水の流れ方まで含めて、硬度除去の違いを考える必要があります。
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さらに使い続けるとどうなる?
今回は長時間の連続通水試験までは行いませんが、イオン交換の考え方から、その後の挙動にも違いが予想されます。
小型カートリッジでは、通水初期から硬度成分が一部残留し、樹脂の交換容量が消費されるにつれて、処理水硬度が徐々に原水硬度へ近づいていくことが考えられます。
一方、十分な樹脂量と樹脂層を確保したイオン交換塔では、一定期間は低い処理水硬度を維持し、その後、一気に水質が悪化するという挙動、つまり交換帯が出口側へ到達すると処理水硬度が上昇する「破過」という挙動を示します。
これは工業用のイオン交換設備でも基本となる考え方です。
今回の実験から見えてくること
今回の比較から、軟水器の性能は単純な「樹脂入り」という表示だけでは判断できないことが分かります。
樹脂量・樹脂層高・線流速・水の流れ。
これらを組み合わせてはじめて、イオン交換樹脂本来の性能をどこまで引き出せるかが決まります。
このように、シャワー用軟水器の内部構造や水の流れ、最終的な硬度測定を通じて、その性能や効率を確認する実験は、非常に有意義です。これからの選択や購入時の判断基準としても活用できる情報を得ることができました。
良い軟水器は「中身」を考えて設計されている
軟水器選びは、見た目やブランドだけでなく、その内部構造と性能に基づいて行うべきです。特に、イオン交換樹脂の量や配置、使用方法がどれほど巧妙に設計されているかは、シャワーや家庭用水の軟化効果に直接影響します。本記事では、良い軟水器を選ぶための重要な要素を詳しく解説します。
樹脂は多ければよいわけではない
一般的に、イオン交換樹脂は量が多いほど軟水化能力が高くなると考えがちです。確かに樹脂量が増えれば、処理できる硬度成分の総量も増えます。しかし、樹脂を多く入れるだけで、必ずしも十分な軟水性能が得られるわけではありません。
重要なのは、水がイオン交換樹脂と十分に接触できるように、一定の樹脂層を形成して水を通すことです。
特に注意したいのが、樹脂が水中で大きく浮遊してしまう状態です。樹脂が浮遊しても、一粒一粒のイオン交換能力そのものが失われるわけではありません。しかし、充填された樹脂層として水を順番に処理する状態が崩れるため、装置全体としては硬度成分を効率よく除去しにくくなります。
特に下から上へ水を流す上向流では、流速が大きすぎると樹脂層が膨張・流動化します。そのため、樹脂を充填層として使用する場合には、樹脂が過度に浮遊しない範囲で流速を設定することも重要です。
つまり、軟水器の性能を考えるときには、
樹脂量 × 線流速 × 樹脂層高 × 樹脂層の状態
をセットで考える必要があります。
樹脂を「使い切る」ための構造設計
まとめると、良い軟水器とは、イオン交換樹脂の性能を効率よく引き出せるように設計された装置といえます。
単に樹脂量を増やせばよいわけではありません。水が樹脂層全体をしっかり通過し、硬度成分と樹脂が十分に接触できる構造が重要です。
そのためには、樹脂量・樹脂層高・線流速・水の流れ方をバランスよく考える必要があります。また、樹脂層を適切に維持し、水が入口から出口まで偏りなく流れることも大切です。
これは家庭用の軟水器でも、業務用のイオン交換塔でも基本的な考え方は同じです。
大切なのは「どれだけ樹脂が入っているか」だけではなく、「その樹脂をどれだけ有効に使える構造になっているか」です。
今回の実験からも、同じ「軟水器」という名前であっても、その構造や水の流し方によって、得られる軟水の程度には違いが生じることが見えてきました。
この締め方なら、第4回で積み上げてきた樹脂量 → 線流速 → 樹脂層高 → 流れ → 装置設計が一つにつながります。
外観だけでは軟水性能は分からない
シャワー用軟水器を選ぶ際は、外観や価格だけでなく、どのように軟水をつくっているかを見ることが大切です。「イオン交換樹脂入り」と表示されていても、樹脂の種類や量、樹脂層の高さ、水の流れ方によって、硬度をどこまで除去できるかは変わります。
可能であれば、実際の処理水の硬度を測定してみることも、軟水性能を確認する一つの方法です。大切なのは「軟水になるか」だけではなく、**「どの程度まで硬度を下げられるのか」**という視点です。
今回までの実験から、良い軟水をつくるためには、
樹脂量 × 樹脂層高 × 線流速 × 水の流れ方
を総合的に考えることが重要だと分かります。イオン交換樹脂そのものの性能だけでなく、その性能を十分に引き出せる使い方と装置設計がポイントになります。
次回はいよいよ最終回です。これまでの実験結果を振り返りながら、軟水器を選ぶときに「どこを見ればよいのか」を、具体的なチェックポイントとして整理していきます。
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