【第1回】 そもそも「純水」とは何だろう?~水道水・軟水・純水の違いから考える~ (全12回連載 純水を科学する)
水は私たちの生活に欠かせない存在ですが、「純水とはどのような水なのか」と聞かれると、意外と知らないことも多いのではないでしょうか。
今回は「純水を科学する」の第1回として、純水とは何か、水道水や軟水とは何が違うのかを基本から見ていきます。
さらに、純水の水質を確認するために使われるTDSやECについても紹介し、純水が私たちの身近な生活や産業の中でどのように利用されているのかを考えていきます。
まずは、「そもそも純水とはどんな水なのか?」から始めてみましょう。
そもそも「純水」とはどんな水?
純水とは、特定の物質が取り除かれた水のことを指します。しかし、純水が何を意味するかを理解するには、まず水道水や軟水との違いを確認する必要があります。水道水は一見透明ですが、実はカルシウム、マグネシウム、ナトリウムなど、さまざまなイオン成分が溶け込んでいます。これらは水の硬度を決定づける重要な要素で、硬水として知られています。
水道水の中には何が入っている?
水道水にはさまざまな成分が含まれており、その種類や量は地域や水源によって異なります。
主な成分として、カルシウムやマグネシウム、ナトリウムなどのイオン成分のほか、炭酸水素イオンやシリカ、微量の有機物なども含まれています。また、安全な水道水を供給するため、浄水処理では次亜塩素酸ナトリウムなどの塩素剤を用いた消毒も行われています。
このうち、カルシウムとマグネシウムは水の「硬度」を決める代表的な成分です。そのほかの成分も、水の味や性質、水処理のしやすさなどに関係しています。
つまり、透明に見える水道水にも、実はいろいろな成分が溶け込んでいるのです。
軟水と純水は何が違う?
軟水は、硬水に比べてカルシウムやマグネシウムなどの硬度成分が少ない水です。イオン交換樹脂を使った軟水化では、主に水中のカルシウム(Ca²⁺)やマグネシウム(Mg²⁺)をナトリウム(Na⁺)に交換します。
そのため、軟水になってもナトリウムや塩化物イオンなど、水中のイオン成分そのものがなくなるわけではありません。
一方、純水は、こうした水中のイオン成分などをできるだけ取り除き、純度を高めた水です。
つまり、
軟水:主に硬度成分を少なくした水
純水:水中の不純物を取り除き、純度を高めた水
という違いがあります。
1-3 「純水=何も入っていない水」ではない
「純水」という名前から、すべての物質が完全になくなった水をイメージするかもしれません。
しかし、実際の純水には純度にもさまざまなレベルがあり、「純水だからすべての成分が完全にゼロ」というわけではありません。
また、純水をつくる方法によっても、取り除きやすい成分は異なります。例えば、イオン交換樹脂は水中のイオン成分を取り除くことを得意としていますが、すべての物質を同じように除去できるわけではありません。
そのため純水を見るときには、
「何が入っていないか」だけではなく、「どの程度まで純度が高められているのか」
という視点が大切です。
そして、その純度を確認する代表的な指標が、次に紹介するTDSやEC(電気伝導率)です。
純水の「きれいさ」はどうやって測る?
純水の水質を確認する代表的な指標として、TDS(総溶解固形物)やEC(電気伝導率)があります。
水に溶けているイオンが少なくなると電気が流れにくくなるため、これらの値を測ることで、純水がどの程度つくられているのかを確認することができます。
TDSとは何を測っている?
TDS(Total Dissolved Solids)は、水に溶けている物質の量を表す指標で、一般にppmで表示されます。
ただし、家庭用などで使用される一般的なTDS計は、溶けている物質を直接測っているわけではありません。実際には水の電気伝導率(EC)を測定し、一定の換算係数を使ってTDSとして表示しています。
そのためTDSは、純水器の処理状態やイオン交換樹脂の交換時期を簡単に確認するための、便利な目安として利用できます。
EC(電気伝導率)との関係
EC(電気伝導率)は、水がどのくらい電気を通しやすいかを表す指標です。
水中にナトリウムやカルシウム、塩化物イオンなどのイオンが多く存在すると電気が流れやすくなり、ECは高くなります。反対に、イオンが少なくなるとECは低くなります。
つまり一般的なTDS計では、
水中のイオンが多い → ECが高い → TDS表示も高くなる
という関係を利用して、水質を簡易的に確認しています。
「TDS 0ppm」は本当に何も入っていない?
ここは純水を理解するうえで大切なポイントです。
TDS計に「0ppm」と表示されても、水中のすべての物質が完全にゼロになったことを意味するわけではありません。
TDS計には測定範囲や表示分解能があり、さらに一般的なTDS計が捉えているのは、主に水の電気伝導に関係する溶解成分です。
そのため、
TDS 0ppm = そのTDS計では非常に低い値として表示されている
と理解するのが適切です。
より純度の高い水を詳しく評価する場合には、TDSだけでなく、より低い領域まで測定できる電気伝導率(EC)や比抵抗などが使われます。

ECは水中のイオンから計算できる
EC(電気伝導率)は水質計で測定するだけでなく、水中に含まれているイオンの種類と濃度が分かれば、計算によって求めることもできます。
これは、ECが単なる水質計の表示値ではなく、水中のイオンが電気を運ぶ性質を数値化したものだからです。
イオンにはそれぞれ「電気を運ぶ力」がある
水中では、Na⁺、Ca²⁺、Mg²⁺、Cl⁻などのイオンが移動することで電気が流れます。しかし、すべてのイオンが同じように電気を運ぶわけではありません。
それぞれのイオンが電気を運ぶ能力を表す値として、モルイオン伝導率があります。特に十分に希薄な溶液では、無限希釈における極限モルイオン伝導率を用いて、ECを概算することができます。
ここで、
- :電気伝導率
- :各イオンのモル濃度
- :各イオンの極限モルイオン伝導率
です。
極限モルイオン伝導率はイオンの種類や温度によって異なり、化学便覧などの資料から調べることができます。
したがって、水質分析結果と伝導率データがあれば、読者自身でもECを計算することができます。
水質分析値から実際にECを計算してみる
例えば水質分析からNa⁺、Ca²⁺、Mg²⁺、Cl⁻、HCO₃⁻などの濃度が分かっている場合、それぞれをmol/Lに換算し、対応する極限モルイオン伝導率を掛けて合計します。
水質分析値(mg/L)
→ mol/Lへ換算
→ 極限モルイオン伝導率を掛ける
→ 各イオンの値を合計
→ ECを概算
という比較的簡単な計算です。
逆に、ECだけを測定しても、その電気をNa⁺が運んでいるのか、Ca²⁺やCl⁻が運んでいるのかを判別することはできません。
つまり、
EC測定=イオン全体の電気的な性質を見る
イオン分析=イオンの種類と濃度を見る
という違いがあります。
そして、水質分析から計算したECと実際に水質計で測定したECを比較することで、水質分析結果を別の角度から確認することもできます。
非常に純度の高い水では「水自身」も考える
ただし、純水のようにイオン濃度が非常に低くなると、もう一つ重要なことがあります。
水は完全にH₂Oだけの状態で存在しているわけではなく、ごくわずかに、
と自己解離しています。
そのため、外部から混入したイオンがほとんどなくなっても、H⁺とOH⁻による電気伝導が残ります。
25℃の理論的な純水では、電気伝導率はおよそ0.055 µS/cm、比抵抗では約18.2 MΩ・cmになります。
したがって、非常に希薄な溶液についてイオン濃度からECを計算する場合には、分析対象となるNa⁺やCl⁻などだけでなく、水の自己解離によるH⁺、OH⁻の寄与も無視できなくなることに注意が必要です。
イオン濃度が高い水では溶存イオンがECを支配しますが、純水に近づくほど「水そのものが持つ電気伝導」も見えてきます。

純水はどんなところで使われている?
純水はその品質の高さから、さまざまな分野で重要な役割を果たしています。近年では家庭でも身近に使われるようになっていますが、産業界ではさらに高い水質が求められています。それでは、純水の利用方法や水道水から純水を作るプロセスについて深掘りしてみましょう。
家庭で身近になってきた純水
最近では、家庭でも純水を利用する機会が少しずつ増えています。家庭用の純水器やRO装置なども販売されており、純水は産業だけで使われる特別な水ではなくなってきました。
身近な利用例の一つが、純水を使った洗車です。水道水にはカルシウムやマグネシウムなどの成分が含まれているため、水滴がそのまま乾燥すると、これらの成分が車体表面に残ることがあります。
一方、純水ではこうしたイオン成分が大幅に少なくなっているため、乾燥した後にミネラル由来の水ジミが残りにくいという特徴があります。このため、近年では家庭での洗車にも純水が利用されるようになっています。
同じ考え方は、業務用の食器洗浄にも利用されています。特にグラスや食器では、すすぎ水に含まれるミネラル分が乾燥すると、白い斑点や跡として残ることがあります。そのため、用途や設備によっては、最終すすぎに純水やRO処理水などを使用し、乾燥後のミネラル由来の跡を少なくして、グラスなどをきれいに仕上げる方法が採用されています。
家庭用食洗機では通常、純水を直接供給する使い方は一般的ではありませんが、これも純水の特徴を理解するうえで分かりやすい利用例です。
また、加湿器やスチーマーなど、水が蒸発した後にミネラル分をできるだけ残したくない用途でも、純水が利用されることがあります。ただし、使用する機器によって推奨される水質は異なるため、メーカーの指定を確認することが大切です。
このように考えると、家庭・業務用途における純水の特徴を、
「水がなくなった後に、できるだけ何も残さない水」
と表現できます。
産業ではさらに高い水質が求められる
一方、産業界では、家庭で使用する純水よりもさらに高い水質が求められることがあります。代表的なのが、半導体、医薬品、発電設備などの分野です。
半導体製造では、シリコンウェハーの表面に非常に微細な回路を形成するため、各工程でウェハーを繰り返し洗浄します。このとき洗浄水にわずかなイオンや有機物、微粒子などが含まれているだけでも、製品の品質に影響する可能性があります。
そのため、イオン成分だけでなく、有機物、微粒子、微生物、溶存ガスなども極めて低いレベルまで管理した「超純水」が使用されています。非常に純度の高い水では、25℃における比抵抗が理論上の上限に近い18.2 MΩ・cm程度となり、電気伝導率では約0.055 µS/cmという非常に小さな値になります。
医薬品製造でも、水は原料や製造設備の洗浄などさまざまな工程で使用されます。用途に応じて精製水や注射用水などが使い分けられ、導電率だけでなく、有機物や微生物などについても品質管理が行われます。
また、火力発電所などでも高純度の水が使用されています。ボイラーや蒸気・復水系統では、水中の不純物がスケールや腐食などの原因になるため、用途に応じて高い水質管理が求められます。
このように「純水」といっても、必要とされる水質は用途によって大きく異なります。
家庭で使う純水 → イオン成分を少なくすることが主な目的
産業用純水 → 用途に応じてさらに厳しい水質管理
超純水 → イオンだけでなく、有機物や微粒子なども極めて低いレベルまで管理
つまり、純水には単純に「純水か、純水ではないか」という境界があるのではなく、何に使うのかによって求められる「純度」が異なるのです。
では、どうやって水道水から純水をつくる?
水道水から純水をつくるためには、目的とする水質に応じて、さまざまな水処理技術が使われています。
代表的な方法の一つが、逆浸透膜(RO膜)です。RO膜は非常に微細な分離膜に圧力をかけて水を透過させることで、水中に含まれるイオンや有機物などの多くを除去します。ただし、すべての成分を完全に除去できるわけではなく、膜の種類や原水水質、運転条件によって処理水質は異なります。
もう一つの代表的な方法が、イオン交換樹脂です。イオン交換樹脂は、水中の陽イオンや陰イオンを樹脂内部のイオンと交換することで除去します。特に純水製造では、カチオン交換樹脂とアニオン交換樹脂を組み合わせることで、水中のイオン成分を非常に低いレベルまで減らすことができます。
さらに、活性炭も水処理で広く利用されています。活性炭はイオンを除去することを主な目的とする材料ではなく、残留塩素や一部の有機物などの除去に適しており、RO膜やイオン交換樹脂の前処理として使用されます。
それぞれの技術には得意な分野があります。
活性炭:残留塩素や一部の有機物など
RO膜:イオンを含む幅広い溶存成分を大きく低減
イオン交換樹脂:水中のイオン成分をさらに低いレベルまで除去
実際の純水製造設備では、必要とする水質に応じて、これらの技術を単独で使用したり、組み合わせたりしています。例えば、活性炭などによる前処理 → RO膜 → イオン交換樹脂というように、それぞれの特徴を活かした処理も行われています。
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