【第6回】 純水器は、どれだけの純水をつくれるの? ~イオン交換容量と純水製造量の関係~ (全12回純水製造を科学する)
前回は、水の流速(LV)やイオン交換帯、樹脂層高が純水の水質に与える影響について解説しました。
では、純水器は実際にどれだけの純水をつくることができるのでしょうか?
今回は、イオン交換樹脂の交換容量と純水製造量の関係に注目します。原水の水質による製造量の違いや、樹脂の交換時期、さらには純水器を2台直列に接続することで樹脂を有効活用する方法についても考えていきます。
イオン交換樹脂は、どれだけのイオンを除去できるのか?
イオン交換樹脂は、水中の不要なイオンを除去して純水をつくるための重要な材料です。しかし、除去できるイオンの量には限りがあります。
では、イオン交換樹脂はどれだけのイオンを除去できるのでしょうか?
ここでは、その能力を表す「イオン交換容量」について解説するとともに、樹脂の交換容量と実際に製造できる純水量の関係を考えていきます。
イオン交換容量とは、何を表す数値なのか?
イオン交換容量とは、イオン交換樹脂がどれだけのイオンを交換できるかを表す指標です。
一般的な水処理用イオン交換樹脂では、湿潤樹脂1 L当たりの交換容量を「eq/L-R(当量/L-樹脂)」という単位で表します。
例えば、交換容量が2 eq/L-Rの樹脂であれば、樹脂1 L当たり2当量のイオンを交換できる能力を持つことになります。
一方、交換容量には、乾燥樹脂1 g当たりの「meq/g-dry(ミリ当量/g-乾燥樹脂)」や、湿潤樹脂1 g当たりの「meq/g-wet」という表し方もあります。
乾燥重量当たりの交換容量は、樹脂の官能基量を比較する際に役立ちます。ただし、樹脂の種類や構造、架橋度などによって数値は異なります。
一般的な純水装置の設計や樹脂の性能評価では、湿潤樹脂の体積当たりの交換容量(eq/L-R)を基本として考えると分かりやすいでしょう。
なお、交換容量を比較する際には、湿潤体積当たり、乾燥重量当たり、湿潤重量当たりなど、単位と測定基準を確認することが重要です。
また、交換容量のすべてを実際の純水製造に利用できるとは限りません。その違いについては、次の項目で解説します。
交換容量と実際の通水での交換容量は、どう違う?
イオン交換樹脂には、樹脂が持つイオン交換基の総量を表す「交換容量」という指標があります。
しかし、実際の純水製造では、この交換容量のすべてを利用できるとは限りません。
例えば、樹脂の交換容量がまだ残っていても、水の流速や樹脂層高、イオン交換速度などの影響によって、出口の水質が悪化する場合があります。
これは、前回説明した「イオン交換帯」とも関係しています。イオン交換帯が樹脂層の出口に近づくと、樹脂全体の交換容量を使い切る前に、処理水中のイオン濃度が上昇することがあります。
このように、一定の出口水質に達するまでに、実際に利用された交換容量を「貫流容量」と呼びます。貫流容量は、原水水質や通水条件、出口水質の判定基準によって変わります。
つまり、純水器で重要なのは、樹脂が持つ交換容量だけでなく、求められる水質を維持しながら、どれだけの純水を製造できるかということです。
交換容量が同じでも、製造できる純水量が異なるのはなぜ?
イオン交換樹脂の交換容量が同じでも、製造できる純水量は必ずしも同じにはなりません。その大きな理由は、原水に含まれるイオンの量と種類が異なるためです。
例えば、原水のイオン濃度が高いほど、同じ量の純水をつくるために必要な交換容量が大きくなり、製造できる純水量は少なくなる傾向があります。
また、水道水は地域によって水源や水質が異なり、カルシウム、マグネシウム、ナトリウム、塩化物イオン、炭酸水素イオンなどの含有割合も変わります。
イオン交換樹脂には、イオンの種類によって交換されやすさが異なる「選択性」という性質があります。そのため、同じTDSの原水であっても、イオン組成の違いによって純水製造量や出口水質に差が生じる場合があります。
つまり、純水製造量を考える際には、樹脂の交換容量だけでなく、原水にどのようなイオンが、どれだけ含まれているのかを知ることが重要です。
純水製造量は、何によって変わるのか?
前回は、水の流速(LV)や樹脂層高が純水の水質に与える影響について説明しました。また、前章ではイオン交換樹脂の交換容量について解説しました。
では、同じ量のイオン交換樹脂を使用しても、純水製造量が変わるのはなぜでしょうか?
ここでは、流速などの通水条件に加え、原水に含まれるイオンの種類や濃度、イオン交換帯の移動、さらに処理水のTDS上昇との関係から、純水製造量が変化する仕組みを考えていきます。
原水の水質が変わると、純水製造量はどう変わる?
原水の水質は、純水製造量を左右する重要な要素の一つです。特に、水中に含まれるイオンの種類と濃度が大きく関係します。
例えば、原水のTDSが50 ppmの場合と300 ppmの場合を比較してみましょう。同じ種類・同じ量のイオン交換樹脂を使用すれば、樹脂が持つ交換容量は基本的に同じです。しかし、原水のイオン組成が同程度であれば、TDSが高いほど単位水量当たりの交換容量の消費が大きくなり、製造できる純水量は少なくなる傾向があります。
一方、同じTDSでも、原水に含まれるイオンの種類や割合によって、樹脂が交換するイオンの当量数は異なります。
さらに、イオン交換樹脂にはイオンの種類によって交換されやすさが異なる「選択性」があり、処理水へのイオンの漏出にも関係します。
特に、シリカやホウ素、炭酸成分などの弱電解質は、水中での解離状態によってイオン交換樹脂での除去挙動が異なり、純水製造において注意が必要な成分です。
例えば、半導体製造に使用する超純水では、微量のシリカやホウ素も製造工程や製品品質に影響する可能性があるため、厳しい水質管理が求められます。一方、家庭での純水洗車では、主にTDSを目安として水質を管理することが一般的です。
このように、同じ純水製造でも、用途によって求められる水質が異なるため、原水のイオン組成や除去対象成分を考慮することが重要です。
イオン交換帯が出口に近づくと、何が起こる?
イオン交換樹脂には、水中のイオンが活発に交換される「イオン交換帯」と呼ばれる領域があります。
原水を流し続けると、入口側から徐々に交換容量が消費され、イオン交換帯は樹脂層の出口方向へ移動していきます。
イオン交換帯が出口に近づくと、未使用の樹脂層が少なくなり、やがて除去しきれなかったイオンが処理水中に漏れ始めます。この現象を「貫流(破過)」と呼びます。
例えば、純水洗車で処理水のTDSを1 ppm以下に管理する場合、TDSが1 ppmを超えた時点を貫流点として設定できます。
このように、積算通水量に対する出口水質の変化を表したものが「貫流曲線」です。また、設定した貫流点までに樹脂が実際に交換したイオンの量を「貫流容量」と呼びます。
ここで重要なのは、貫流が始まっても、樹脂全体の交換容量がすべて失われたわけではないということです。
つまり、純水器で製造できる純水量は、樹脂が持つ総交換容量だけでなく、どの水質を貫流点として設定するかによっても変わるのです。
【用語】
意味・定義
- 総交換容量 樹脂が持つイオン交換基の総量。一般的には湿潤樹脂1 L当たりの当量(eq/L-R)で表す。
- イオン交換帯 樹脂層内で、原水中のイオンが主に交換されている領域。
- 貫流(破過) 通水が進み、除去対象のイオンが出口に漏出し、設定した水質基準に達する現象。
- 貫流点(破過点) 処理水があらかじめ設定した水質基準に達した時点。
- 貫流曲線(破過曲線)積算通水量や通水時間に対する、出口のイオン濃度などの変化を示す曲線。
- 貫流容量(破過容量)貫流点までに、樹脂が実際に交換したイオンの量。通常、樹脂量当たりの交換量で表す。
【実験動画】イオン交換樹脂の貫流試験 (原水TDS=110ppm)
原水TDSが110 ppmの水道水を使用し、イオン交換樹脂に連続通水した際の処理水TDSの変化を確認しました。
通水初期にはTDSが0 ppmでしたが、通水量の増加に伴い、徐々にTDSが上昇していく様子が確認できます。
この結果は、通水が進むことでイオン交換帯が出口方向へ移動し、処理水へのイオンの漏出が始まるという考え方と整合しています。
また、上向流ではなく上部から下部への通水では、入口側の樹脂から交換容量が消費されるため、樹脂層の上部と下部では、交換したイオン量や残存交換容量が異なることが示唆されます。
つまり、処理水のTDSが上昇しても、樹脂層全体の交換容量がすべて失われたわけではないのです。
TDSが上昇したら、交換容量はなくなったの?
前項の実験動画では、TDSが110 ppmの水道水をイオン交換樹脂に通水したところ、処理水のTDSが初期の0 ppmから、通水量の増加に伴って3 ppm、5 ppmへと上昇する様子が確認できました。
では、TDSが上昇した時点で、イオン交換樹脂の交換容量はすべてなくなってしまったのでしょうか?
実際には、必ずしもそうではありません。
前述したように、イオン交換樹脂では、通水が進むにつれて入口側から交換容量が消費され、イオン交換帯が出口方向へ移動していきます。
今回のように上部から下部へ通水する場合、入口側である上部の樹脂ほど多くのイオンを交換し、下部の樹脂には交換容量が残っている可能性があります。
つまり、処理水のTDSが上昇しても、樹脂層全体の交換容量がすべて失われたわけではないということです。
ただし、今回の実験では樹脂層の上部と下部の交換容量を直接測定していないため、交換容量の分布については、イオン交換帯の移動から推測されるものです。
また、処理水TDSの上昇は、交換容量の消費だけでなく、原水水質の変化や通水流量、樹脂層内の偏流などによっても起こる場合があります。
そのため、処理水のTDSが上昇した場合には、樹脂の交換容量が消費されたのか、それとも通水条件などに原因があるのかを確認することが重要です。
樹脂に交換容量が残っていることと、要求される水質の純水を製造できることは、必ずしも同じではありません。
純水器を適切に使用するためには、処理水TDSの変化だけでなく、原水水質や積算通水量も併せて確認し、樹脂の交換時期を判断することが大切です。
純水製造量を予測し、樹脂の交換時期を考える
純水器を使用する際、「この樹脂でどれくらいの純水をつくれるの?」「いつ樹脂を交換すればよいの?」と疑問に思ったことはありませんか?
例えば、純水洗車では、同じ5 Lのイオン交換樹脂を使用しても、水道水の水質や使用条件によって、洗車できる回数が変わることがあります。
また、処理水のTDSが上昇しても、樹脂には交換容量が残っている場合があります。
では、純水製造量をどのように予測し、樹脂の交換時期を判断すればよいのでしょうか?
ここでは、原水TDSと樹脂量から純水製造量を予測する方法、TDSと積算通水量による樹脂交換時期の判断、さらに純水器を2台直列に接続して樹脂を有効活用する方法について解説します。
原水TDSと樹脂量から、純水製造量を予測できる?
原水のTDSは、純水製造量を予測する際の重要な指標の一つです。
一般的に、原水のTDSが高いほど、水中に含まれるイオンの量も多くなり、同じ量のイオン交換樹脂で製造できる純水量は少なくなる傾向があります。
例えば、業務用の混床イオン交換樹脂では、原水の電気伝導率が200 μS/cmの場合、樹脂1 L当たり約200 Lの純水製造量が一つの経験的な目安となります。
電気伝導率200 μS/cmは、一般的なTDS計の換算係数を0.5とすると、TDS約100 ppmに相当します。
この条件で5 Lの樹脂を使用すると、純水製造量は約1,000 Lとなります。
さらに、原水のイオン組成や通水条件が同じであれば、TDSが50 ppmの場合には約2,000 L、200 ppmの場合には約500 Lと、純水製造量が変化すると予測できます。
ただし、実際の純水製造量は、原水に含まれるイオンの種類や樹脂の性能、通水条件、求める出口水質などによって異なります。
つまり、原水TDSと樹脂量から純水製造量の大まかな目安を予測することはできますが、より正確な予測には、実際の運転条件に基づく確認が重要です。
業務用の純水設備では、通水試験によって純水製造量や出口水質を確認することが有効です。一方、個人の純水洗車では、これまでの使用水量や洗車回数、TDSの変化などの実績を活用することで、次回の純水製造量や樹脂交換時期を予測しやすくなります。
樹脂の交換時期は、TDSと積算流量からどう判断する?
イオン交換樹脂の交換時期を判断する際には、処理水のTDSと積算流量が重要な指標になります。
TDSは、純水器から出てくる水の品質を確認するための指標です。例えば、純水洗車ではTDSを1 ppm以下に管理する場合、処理水のTDSがこの基準を超えた時点で、樹脂の交換を検討することになります。
ただし、前述したように、TDSの上昇は必ずしも樹脂の交換容量がすべて失われたことを意味しません。原水水質や通水条件などの影響も考えられるため、状況に応じた確認が必要です。
一方、積算流量は、純水器でこれまでに処理した水の総量を示します。
例えば、原水TDSが100 ppmで、樹脂5 L当たり約1,000 Lの純水を製造できると予測した場合、積算流量が800 Lであれば、予測製造量の約80%を使用したことになります。
このように、積算流量を確認することで、樹脂の交換時期がどの程度近づいているかを予測できます。ただし、積算流量だけで交換容量の残量を正確に判断できるわけではありません。
つまり、TDSは「現在の水質」を確認する指標、積算流量は「これまでの使用量」を確認する指標です。
この2つを組み合わせることで、より適切な樹脂交換時期の判断につながります。
また、業務用純水設備では、水質計や積算流量計による管理が一般的ですが、個人の純水洗車では、TDS計による水質確認と、洗車回数や使用水量の記録を組み合わせることでも、交換時期を予測しやすくなります。
純水器を2台直列にすると、樹脂をより有効に使えるの?
イオン交換樹脂の交換時期に対する考え方は、工業用純水設備と個人向けの純水洗車器では少し異なります。
工業用純水設備では、製造する純水の水質を安定して維持することが重要です。そのため、一般的には処理水の水質が悪化する前に、あらかじめ設定した採水量に達した時点で樹脂を再生する運転方法が採用されます。これを「定収量運転」と呼びます。
この方法では、樹脂の交換容量が残っていても再生を行いますが、再生した樹脂は繰り返し使用するため、残存交換容量を使い切ることよりも、水質の安定性を優先しています。
一方、個人向けの純水洗車器では、処理水のTDSを確認し、水質が設定した基準を超えた時点で樹脂を交換する方法が一般的です。
例えば、TDSが0 ppmから1 ppm程度に上昇しても、通常の純水洗車では直ちに大きな影響が生じるとは考えにくく、工業用の高純度水と比較すると、水質管理の考え方は異なります。
しかし、個人向けの純水器では、使用後の樹脂を再生せずに廃棄する場合も多くあります。
前述したように、処理水のTDSが上昇しても、樹脂層全体の交換容量がすべて失われたわけではありません。そのため、交換容量が残った状態で樹脂を廃棄することは、少しもったいないとも考えられます。
では、残っている交換容量を、さらに有効に活用する方法はないのでしょうか?
その方法の一つが、純水器を2台直列に接続する運転方法です。
1台目の純水器からイオンが漏れ始めても、2台目の純水器で残ったイオンを除去することで、要求される水質を維持しながら、1台目の樹脂をさらに使用できる可能性があります。
また、1台目の樹脂を交換する際には、2台目の純水器を1台目に移動し、新しい樹脂を充填した純水器を2台目に設置する方法もあります。
このような2台直列運用は、工業用純水設備でも採用される場合があります。
ただし、2台直列にしても樹脂そのものの総交換容量が増えるわけではありません。要求水質を維持しながら、樹脂が持つ交換容量をより有効に利用するための方法と考えることができます。
また、余裕を持ってイオン交換樹脂の準備および交換が可能になるというメリットもあります。一度検討するのをお勧めします。
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