【第4回】 なぜ純水器には「高さ」が必要なのか? ~イオン交換樹脂の層高と純水性能の関係~ (全12回 純水を科学する)
「樹脂層の高さ」にはどんな意味がある?
第3回では、同じ種類・同じ量のイオン交換樹脂を使い、樹脂層の高さを変えて純水をつくる実験を動画で見てみました。
ここで少し驚くのは、使っているイオン交換樹脂は同じなのに、樹脂層の高さ、言い換えれば「樹脂の積み方」を変えることで、処理水の水質に違いが現れたことです。
なぜ、同じイオン交換樹脂なのに、このような違いが生まれるのでしょうか。
ここからは、純水器の中を流れる水とイオンここ交換樹脂の関係を少しずつ見ながら、「なぜ純水器には高さが必要なのか?」を探っていきましょう。
まずは、第3回の実験をもう一度見てみましょう
第3回では、同じ種類・同じ量(56 mL)のイオン交換樹脂を使用し、容器の形状を変えて、樹脂層の高さを53 mmと95 mmにした実験を紹介しました。
使用している樹脂は同じなのに、処理水の水質には違いが現れました。
少し不思議ですよね。
そこで今回は、この実験動画をもう一度見ながら、なぜこのような違いが生まれるのかを考えてみたいと思います。
【実験動画・第3回から再掲】
実験条件:混床樹脂56 mL、原水TDS約110 ppm、流量約17 L/h
なお、今回の実験では、容器形状を変えたことで樹脂層高だけでなく、断面積や線流速(LV)も変化しています。そのため、結果を層高だけの影響と断定することはできません。
では、まず水が樹脂層の中をどのように通り、イオン交換が進んでいくのかを見ていきましょう。
水は樹脂層の中をどのように通る?
純水器の中に入った水は、イオン交換樹脂の粒と粒の間にできた小さなすき間を通りながら、樹脂層の中を進んでいきます。
ただし、水は樹脂層の中を一本の直線として流れているわけではありません。樹脂粒子を避けながら、細かな流路を何度も曲がって進んでいきます。
このとき、樹脂粒子の大きさやそのばらつき、樹脂の充填状態によって、粒子間にできるすき間や水の流れ方も変わります。
均一粒径樹脂ではどうなる?
最近では、粒径を比較的均一にそろえたイオン交換樹脂も広く使われています。粒径分布の広い樹脂と比べると、樹脂層内の空隙構造や水の流れも比較的均一になりやすくなります。また、粒子径のばらつきが小さいことは、樹脂内部へのイオンの拡散距離をそろえる点でも意味があります。
つまり、純水器では「水が樹脂に触れたかどうか」だけではなく、水が樹脂層の中をどのように通り、その間にイオンがどのように樹脂へ移動するかが重要になります。
イオン交換は一瞬で終わるわけではない
水中のイオンがイオン交換樹脂によって取り除かれるまでには、いくつかの過程があります。
例えば、水中にあるイオンが樹脂によって交換される場合、概念的には次のように進みます。
① 水中のイオンが樹脂粒子の近くまで運ばれる
↓
② 樹脂表面を取り囲む液境膜を通過する(境膜拡散)
↓
③ 樹脂粒子の内部へ移動する(粒子内拡散)
↓
④ 樹脂内部の交換基でイオン交換が起こる
↓
⑤ 樹脂から放出されたイオンが粒子内部を移動する
↓
⑥ 液境膜を通って、再び外部の水相へ移動する

つまり、イオン交換は単に、
「水が樹脂に触れた瞬間にイオンが入れ替わる」
という現象ではありません。
水中のイオンが樹脂内部まで移動し、そこで交換され、さらに交換によって放出されたイオンが樹脂の外へ移動するという、一連の物質移動とイオン交換反応によって進んでいます。
ここで重要なのは、イオン交換反応そのものが速くても、実際の処理速度は、液境膜や樹脂粒子内部をイオンが移動する速度によって制限される場合があるということです。
なぜ「樹脂量」だけではなく「層高」が重要なの?
では、なぜ純水器では、樹脂量だけでなく「樹脂層の高さ」が重要なのでしょうか。
水は樹脂層の中を流れながら進んでいきます。
一方、水中のイオンが樹脂によって取り除かれるためには、先ほど見たように、液境膜を通り、樹脂内部へ移動し、イオン交換されるという一連の過程が必要です。
つまり、水と一緒に移動していくイオンの速さに対して、イオン交換による除去が瞬間的に完了するわけではありません。
そのため、純水器では一粒の樹脂だけで処理するのではなく、多数の樹脂粒子を「層」として配置します。
水がその樹脂層を通過する間に、
ある粒子で取り切れなかったイオンを、その先の粒子が交換する。
さらに残ったイオンを、その次の粒子が交換する。
という処理が連続して行われます。
このように考えると、樹脂層の高さには、単に「たくさん樹脂を入れる」という意味だけではなく、水が多数の樹脂粒子と連続的に接触しながら、イオン交換を積み重ねていくための処理区間をつくるという意味があります。
したがって、純水器の性能を考えるときには、
「樹脂が何L入っているか」だけでなく、「その樹脂がどのような高さの層を形成しているか」
を見ることも重要になります。
なぜ層高が純水性能に影響するの?
ここまで、イオン交換樹脂の一粒の中で起こるイオン交換について見てきました。
水中のイオンが取り除かれるまでには、樹脂表面の液境膜を通過し、樹脂内部へ移動して、イオン交換されるという一連の過程が必要です。
では、この小さなイオン交換樹脂を何千、何万粒と積み重ねて「樹脂層」にした場合、どのようなことが起こるのでしょうか。
実は、樹脂層の入口から出口まで、すべての樹脂が同じように働いているわけではありません。
ここに、純水器に層高が必要となる理由があります。
樹脂層の入口から出口まで、同じ状態ではない
純水器に原水を流すと、水中のイオンは樹脂層を通過する間に、少しずつイオン交換樹脂に取り込まれていきます。
使用開始直後の樹脂は、基本的には層全体が再生形となっており、イオン交換できる状態です。
しかし、通水を続けると状況が変わってきます。
原水が最初に接触する樹脂層の入口付近では、イオン交換が進み、樹脂の交換容量が徐々に消費されていきます。
一方、その下流側には、まだ十分な交換能力を持った樹脂が残っています。

さらに通水を続けると、入口付近の樹脂は次第に交換能力を失い、イオン交換が活発に進む場所が下流側へ移動していきます。
つまり、樹脂層の中では、
- 入口側:すでに多くのイオンを交換した領域
- 中間部分:現在、イオン交換が進んでいる領域
- 出口側:まだ交換能力が十分に残っている領域
という状態が形成されていきます。
これは、イオン交換樹脂が層全体で一斉に使い切られるわけではないことを意味しています。
そして、このような変化が水の流れる方向に沿って進んでいくことが、純水器の性能を理解するうえで重要になります。
層高と「交換が進む領域」の関係
それでは、なぜ樹脂層の高さが重要なのでしょうか。
先ほど説明したように、水中のイオンが樹脂に取り込まれるまでには、境膜拡散や粒子内拡散などの過程が必要です。
そのため、イオン交換は樹脂層の入口で瞬間的に完了するわけではありません。
入口付近で取り除かれなかったイオンも、その先にある樹脂粒子と接触することで、さらに交換される機会があります。
このような処理が連続して進むためには、ある程度の樹脂層の高さが必要になります。
ここで重要になるのが、「交換帯」という考え方です。
交換帯とは、樹脂層の中で、イオン交換の状態が大きく変化している領域のことです。
交換帯の長さは、樹脂の種類や粒径、原水水質、流速などによって変化します。
例えば、交換帯が長い場合には、イオン交換が完了するまでに、より長い樹脂層が必要になります。
逆に、交換帯が比較的短ければ、イオン交換が限られた区間で効率よく進み、樹脂層の交換容量を有効に利用しやすくなります。
つまり、純水器では単純に樹脂量を増やすだけでなく、
「交換帯が十分に収まる樹脂層を確保すること」
が重要になるのです。
そして、この交換帯が樹脂層の出口に近づき、処理水中にイオンが漏れ始める現象を、一般に「破過(はか)」と呼びます。
交換帯と破過の関係については、第6回で詳しく説明します。
層高は高ければ高いほど良い?
ここまでの説明から、樹脂層は高いほど純水性能が良くなるように感じられるかもしれません。
しかし、実際の純水器では、必ずしもそうとは限りません。
確かに、同じ断面積と流量で樹脂層を高くすれば、樹脂量が増え、イオン交換できる容量も大きくなります。
また、水が樹脂層を通過する間に、イオン交換が進むための処理区間も長くなります。
一方で、樹脂層を高くすると、一般には水を通すために必要な圧力も大きくなります。
さらに、装置の大きさや樹脂の使用量、運転コストなども考慮する必要があります。
ここで大切なのは、単に層高を大きくすることではなく、必要な純水水質を維持しながら、イオン交換樹脂をできるだけ有効に利用することです。
例えば、実用的な線流速(LV)で水を流しても、交換帯が比較的短く保たれ、樹脂層の大部分を有効に使うことができれば、効率の良い純水器と考えられます。
反対に、樹脂層が十分に高くても、水が一部に集中して流れたり、イオン交換の進行が遅れたりすれば、期待した性能が得られない場合もあります。
つまり、良い純水器を考えるうえでは、
樹脂層高・線流速(LV)・水の流れ方・交換帯の長さ
を組み合わせて考える必要があります。
ここまでで、純水器に「高さ」が必要となる理由が少し見えてきました。
では、同じ高さの樹脂層でも、水を流す速さを変えると、イオン交換の進み方はどう変わるのでしょうか。
次回は、
第5回 水を速く流すと純水はどうなる? ~流量・線流速(LV)と純水性能の関係~
として、純水器の性能を左右するもう一つの重要な要素を考えていきます。
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